伊牟ちゃんの筆箱

 詩 小説 推理 SF

「海と空が描く三角」の連載を始めました。
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「三人共、今朝は休みなのに、随分と早起きね」
 芙美子が、呆れ顔で三人の顔を順番に見ている。
「ちょっと、出掛けなきゃいけないんだ。仁科のおじさんと会うんだ」
 大地は、仁科と会う事を、できるだけ多くの人間に知らせておこうとしていた。食事の前にも、友人に電話し、急に仁科と会う事になったから、バスケットの試合には出れないと伝えた。金曜日にバスケットの試合をライバルチームに申し込んでいたから、おかしいなとは思っていたが、友人に印象付けるために、わざと嘘をついたようだ。
 だが、芙美子の表情が、険しくなった。
「大地君、まさか、仁科さんにお父さんの事で、迷惑を掛けるような事はしないでしょうね」
 さすがに、宙美の母、大地の叔母である。鋭い勘を働かせている。
 隼人は、ぎくっとなった。
「関係が無いと言ったら嘘になるけど、迷惑を掛けるわけでもないんだ。詳しくは、会った後で話すよ」
「何をお願いするつもりなの?」
 芙美子は、詰問した。
「何も頼まないつもりだよ。いや、話の内容によっては、一つだけ頼む事になるかもしれないけど、ただ、話を聞きたいだけなんだ」
「お父さんの事が心配なのは分かるけど、他の人に迷惑を掛けないようにしなさいよ」
 芙美子は、渋々ながら、会う事を認めた。
 食事が終わると、大地と宙美は出掛けた。
「あら、隼人君は、一緒に行かないの?」
「うん。僕は、まだ調べたい事があるから。おじさんの事を調べていたら、色々分かってきたんだ。大地君は、それを確認するために、仁科さんの所へ出掛けたんだけど、僕は、まだ調べる事が残ってるんだ」
「隼人君。一体、何を調べてるの?」
 隼人は、答えるべきか、逡巡した。
 その時、ちょうど電話が鳴った。宙美からだった。大地の電話は、開けておくつもりらしい。いざという時には、宙美の電話で連絡を取りつつ、大地の電話で通報するつもりらしい。
「じゃあ、このままにしてるよ」
 隼人は、そう言って、電話をしていないような素振りで、芙美子に対した。
「おばさん。知っていたら、教えてくれないかな」
「何を聞きたいの?」
「僕達が乗ってきたスペースプレーンなんだけど。あれは、どうして管制センターにあったの?」
 最初の質問は、確認済みの情報から始めた。
「あれは、宇宙移民事業団の主催で、鹿児島の中学生を、飛鳥やスペースコロニーに招待するために、準備していたんだと思うわ」
 ここまで調査が正しい事が、これで確認できた。同時に、なぜ捜査を始めた時に芙美子に聞かなかったのかと、後悔の気持ちが隼人の心の中に重く残った。
 気を取り直し、質問を続けた。
「じゃあ、招待していた中学生を乗せてあげれば良かったのに」
「それは、無理だったわ。私は、隼人君のお父様に頼まれて、職員の家族をスペースプレーンに誘導する係をしたの。だから、最終便になったんだけどね。
 時間が、足りなくて、できれば周辺の人達も乗せてあげたかったけど、あの辺りは過疎が進んでるでしょう。おまけに、お年寄りが多いでしょう。だから、集まってくるまで時間が掛かるのよ。隼人君のお父さんも、そんな事情を知った上で、事業団職員の家族に限定したのでしょう。それでも、職員は全員亡くなったし、事情を知った御老人の中には、若い人を優先するようにおっしゃられ、最後には私をスペースプレーンに乗せて下さった方もいたのよ。その方は地上に残り、代わりに私がここに来たの」
 芙美子は、その時の情景を思い出し、涙ぐんだ。
「中学生招待の主催者は、誰だったんですか?」
 芙美子は、隼人にちょっとだけ背を向け、見られないように涙を拭いた。
「管制センター長、つまり隼人君のお父様よ。でも、発案者は、今度の大統領選挙に立候補している勅使河原さんよ。勅使河原さんは、征矢野さんに進言して実現したのよ。ただね、自分で挨拶したいからって、日程は一方的に決めてしまったけどね」
 勅使河原の名前が、また出てきた。
 前回出てきたのは、大地の口からだった。
「勅使河原大善ですね。でも、その人は、お父さんに命令できるくらいの権限を持っているんですか?」
「そうよ。いわゆる族議員。宇宙移民事業団の長官だった人。宇宙移民事業団は、科学省の外郭団体だから、科学省のキャリア組が事務次官を務めてるんだけど、勅使河原さんは科学省から派遣されて五年前から三年間、事務次官を務めたのよ。だから、事業団には、強い影響力があるわ」
「飛鳥の許容人員がスペースプレーン二機分しかないのに、スペースプレーンが四機あったのは?」
「4班に分けて、行く予定だったの。最初の班が、八月十七日から十九日、次が二十日から二十二日、3班は入れ替わりで二十二日から二十四日、最後の班が、八月二十五日から二十七日の予定だったの。そこしか、勅使河原さんの予定が空いていなかったのよ。続けて行くものだから、スペースプレーンは四機用意したんだと思うわ」
 朧げだけど、事件の全体像が見えてきたような気がした。
 地上で挨拶するとしたら、十六日には地上に降りている必要がある。
「勅使河原さんは、こっちが本拠地ですよね。だったら、いつ、地上におりる予定になってたんですか?」
「そこまでは、分からないわ。でも、何かの打ち合わせで、地上に降りる予定があったんだと思うわ。その合間に、挨拶するつもりだったんじゃないかしら。でも、挨拶の場所は、地上とは限らないわよ。飛鳥でもできるから、地上に降りない予定だったのかも、知れないわね」
 挨拶の目的は、有権者へのアピールだから、子供しか来ない飛鳥で演説しても意味がない。子供達の父兄を集め、子供達の招待の目的を説く筈だ。
「隼人君?」
 宙美の声が、携帯電話のイヤープラグから聞こえてきた。

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  由布森林公園

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 この日は、金曜日だった。
 学校から帰ると、隼人は、念のため、宇宙移民事業団の公式サイトにアクセスしてみた。やはり、今日は、開かれていた。
 級友から、「大地のお父さん、殺人罪で再逮捕されたらしいぜ」と聞かされていた。それまでは、業務妨害罪での逮捕だったが、殺人罪の容疑も固まったのだろう。捜査も、山を越えた筈だ。だから、宇宙移民事業団も公式サイトを再開するかもしれないと考えたのだが、当たったようだ。
 取り敢えずは、今までの調査を確認しようと、小惑星の軌道や、仁科稔と田端雄一の親子関係の確認をした。また、スペースプレーンの配置も、予想していた通りだと確認できた。だが、やはり、手配の状況は掴めなかった。
 一方で、軌道は、さすがに詳細まで公開されていて、隼人は見直す必要を感じた。
「食事だよ」
 扉の向こうから、大地が声を掛けてくれた。
 隼人は、小惑星の軌道計算プログラムを走らせ、結果が出るまでの間に、夕食を食べる事にした。

 また、三人が隼人の部屋に集まった。
「明日、仁科のおじさんに会う事にしたよ。さっき、連絡した。一応、お父さんの事で相談したいと言っておいた。相談相手がいないんで、お願いしますと言ったら、明日、時間を割いてくれる事になったんだ」
「私も一緒に行っていい?」
「いや、僕が一人で行かないと」
「だって、心配なんだもん」
「僕も行くよ。三人で行けば、簡単には邪心を起こさないだろう」
「待ってくれ。僕一人で行く。もし、万が一の時、不意打ちされたら、三人居ても大差無いよ。それより、バラバラの方が、全員がやられる危険が低くなるよ」
 隼人は、少し考えていた。
「宙美ちゃんは、仁科さんを知ってるのかい?」
「うん、何回も会った事があるわ」
「じゃあ、宙美ちゃんは、大地君と一緒に行った方がいいよ。僕が、犯人なら、堂々と正面から来る人より、その連中はほっといて、証拠を何とかしようとするよ。ここは、安全じゃないと思うんだ。宙美ちゃんは仁科さんを知っているし、行ったとしても、そんなにおかしい話じゃないよ。それに、僕はドジで力も無いから、襲われた時に、宙美ちゃんを守ってあげられない。大地君の傍に居た方が、絶対、安全だよ」
 宙美が、一瞬、寂しそうな顔をしたが、隼人は気付かなかった。
「どうする? 宙美」
「一緒に、連れてって」
 隼人は、ほっとしたような、無力感に襲われた。
「問題は、どんな風に話を持っていくかだけど、僕としては、お父さんが計画していた大気圏を掠める軌道が、実は合理的な軌道だった事を示して、反応を見るつもりなんだ。もし、強く否定したり、無視を決め込むような反応をしたら、軌道修正のプログラムを見せてくれるように、押し込もうと思うんだ」
「見せてくれないだろうな。理由は、いくらでもあるからね」
「もちろん、見せてくれないだろう。理由も、守秘義務を持ち出すだろう。妥当な理由だからね。ここで、カマを掛けてみようと思うんだ。つまり、軌道修正プログラムを細工し、お父さんの軌道よりも地球に近付ける細工をしたでしょうって」
「反応するかな?」
「しなくても、スペースプレーンの件を持ち出して、もう一押ししてみるさ。スペースプレーンの手配に絡んでるのは、知っていますよって」
「何もかも、手の内をさらけ出してしまうのかい?」
「僕は、仁科のおじさんを信じてるんだ。おじさんが犯人だと思えないんだ。もし、犯人だとしても、誰かに脅迫されてるんだと思うんだ。だから、こちらも手の内をさらけ出して、自首を勧めようと思うんだ」
「わかったよ。でも、犯人かもしれないんだから、不用意に刺激しないように注意してよ。それから、定期的に連絡を取り合うようにしよう。お互いの安全のために」
「それには、賛成だ。僕達がここを出る時から、電話は繋ぎっぱなしにしよう。お互いに相手をモニターしていれば、異状があった時に、警察に通報できるからね」
「今夜は、早く寝ましょう。明日は、犯人と格闘になるかもしれないから」
 宙美は、二人の危惧を余所に、楽しそうに言った。

 二人が、それぞれの部屋に戻った後も、隼人は、パソコンに向かった。
 大地は、共犯者の影を感じていた。共犯者が居るとすると、手繰る糸は、スペースプレーンの燃料補給だけだ。それを、何とかして解き明かしたい。
 隼人の焦りとは関係無く、夜は白々と明けていった。
 父がスペースプレーンの燃料補給を認めた以上、予め、スペースプレーンが回航されてくる事は承知していた筈だ。それなら、年間スケジュールに記述がある筈だ。そう思って、スケジュール表を開いた。
(あった!)
 スペースプレーンは、鹿児島県の中学生を飛鳥へ招待する目的で、四機が回航されていた。招待旅行は、墜落事故が無ければ、その三日後から二泊三日の予定で実施される筈だった。
 この話は、父からは聞いていなかったが、クラスや近所の噂話で聞いた事があった。ただ、宇宙移民事業団の職員の子弟は、この招待旅行から除外されていた。それに、隼人達が通う中学は、事業団の敷地内にあり、全員が事業団の関係者の子弟だったので、ほとんど話題に上る事はなかった。
 もしかすると、父が共犯者なのではないだろうか。それなら、仁科が平然として大地達との面会を認めるのも、説明ができる。何せ、主犯は、既に死亡しているのだから。

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