伊牟ちゃんの筆箱

 詩 小説 推理 SF

「海と空が描く三角」の連載を始めました。
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「どうだ。アームストロング」
 ここでは、鉄腕は、アームストロング、または単にアムスと呼ばれていた。でも、アームストロングと呼ばれる時は、必ずロクな話にはならない。
 さっきまでモールスを打っていたリーマンは、上からの返信を待つため、今はじっと耳を欹てている。
「A棟は、閉鎖するしかないですね。連絡トンネルも、厳しいですね。あそこも、閉鎖するしかないです」
「B棟に留まるのは賛成だが、連絡トンネルから閉鎖してしまっては、使えない緊急脱出球しか脱出ルートが無くなってしまうぞ」
 オコーナーの言った事は、当然、出てくる意見だった。
 B棟には、緊急脱出球に繋がるハッチしかない。緊急脱出球には、B棟と接続する下部ハッチの他、上部にもハッチがある。緊急時には、緊急脱出球をエアロック替わりに使用できる。外に出る際には、緊急脱出球の下部ハッチを閉めると、緊急脱出球内に注水し、満水になった所で上部ハッチを開いて外に出る。中に入る際には、緊急脱出球に注水して中に入り、上部ハッチを閉じた後でポンプで排水し、下部ハッチからB棟に入る。
 しかし、電力を温存したい今、ポンプで大きな電力を消費したくない。
 一度出たら、事実上、戻ってくる事が難しい緊急脱出球のルートだけになってしまう事が、根っからダイバーであるオコーナーを不安にさせてしまうのだ。
 再び、リーマンがモールスを打ち始めた。B棟の壁面をハンマーで叩く。目を凝らしていると、壁面とハンマーの間に火花が飛んでいる。
「さて、最大の問題だが、我々は上からの救出を待つべきか、自力脱出を試みるべきか、意見を聞かせてくれないか」
 負傷し、自室のベッドに寝ているリーダーのナンスに替わって、サブリーダーのオハラが切り出した。
 リーマンのモールスが、彼の声を掻き消す。
「もちろん、通常の脱出方法が総て不可能だという事を踏まえての意見をだ」
 言葉を発した本人も含めた四人は、口を噤んでしまった。鉄腕も、気持ちの中で頭を抱えてしまった。
「おい、ドクター・リーマン。モールスは、この話合いが終わってからにしてくれないか」
 リーマンは、きりの良いところでモールスを止めた。そして、ハンマーを床に叩き付けた。ハンマーは、大きな音を立てた後、一度バウンドしたらしく、鉄腕の脹脛にぶつかると、二度目の音を立てて床に落ちた。
 リーマンらしからぬ行動だった。
 鉄腕は、気持ちを切り替えて意見を出してみた。
「取り敢えず、外部から救出に備えて、できる限りの延命策を講じるしかないと思います」
 消極的な意見だと思ったが、自分が口火を切らなければ永遠に沈黙が続きそうだった。
「よし、それを検討してみよう。酸素と二酸化炭素、電力、水、食料、排泄、最後が構造だ。どうだ、酸素と二酸化炭素は」
 酸素と二酸化炭素は、鉄腕の担当だった。
「酸素は、タンクへのケーブルステーションの直撃や配管の損傷から、予備量のほぼ総てが、漏れるか、使用不能になっています。A棟とB棟内の空気だけだと、単純計算で十二日くらいは耐えられると思います。水酸化リチウムタンクも損傷受けていますが、失われた量は僅かです。問題は、電力が足りないため、二酸化炭素を水酸化リチウムに導けない事です」
 酸素の消費は、一分間に睡眠状態で二百ミリリットル弱、軽い運動では三千ミリリットル以上と大きな幅がある。覚醒の安静状態では三百五十ミリリットル程度なので、六人で二千百ミリリットル毎分となる。
 シャングリラの六人は、潜水前の測定では、毎分の消費量は約二千五百ミリリットルであった事が分かっている。この実測値を基準にすると、一時間で百五十リットル、一日で三千六百リットル、三十日で十万八千リットルとなる。
 A棟とB棟の内容量は、約五万三千リットルだ。百気圧に加圧されているが、酸素分圧は0.3気圧なので、常圧では約一万六千リットルだ。中の空気は、四日余りで吸い尽くしてしまう事になる。
 二酸化炭素濃度の許容限度は、ほぼ酸素分圧と二酸化炭素分圧の差で決まる。酸素分圧と二酸化炭素分圧の差の許容値は、二百ヘクトパスカル程度だ。これが、百五十ヘクトパスカルまで下がると、深刻な呼吸困難に陥り、百四十ヘクトパスカルになると、数分の内に死亡してしまう。重傷者がいるので、百八十か、精々百七十ヘクトパスカルが、実際の限度だろう。
 酸素は、一度呼吸すると約五十ヘクトパスカル減り、ほぼ同量の二酸化炭素を産み出す。水酸化リチウムなどの二酸化炭素吸収剤の能力から、シャングリラの定常の二酸化炭素分圧は五十から七十ヘクトパスカルで推移している。シャングリラの酸素分圧は三百ヘクトパスカルなので、一度呼吸すると、酸素分圧と二酸化炭素分圧の差は百五十から二百ヘクトパスカルくらいまで下がる。即ち、一度呼吸すると、二度と同じ空気は呼吸できない。
「A棟は、閉鎖する事も念頭に置く必要があるが、B棟だけだと、どれくらい耐えられるんだ?」
「四十時間くらいです。でも、暖房が止まっているので、体温を維持するのに酸素消費量が増えるので、この数時間の変化を計測して予測しないと危険です。特に、二酸化炭素の濃度には、注意を払う必要があります」
「二酸化炭素濃度から見た場合の、生存可能時間はどれくらいなる?」
「緊急時用バックアップ電源での運転は、十二時間。A棟を閉鎖した状態では、三十時間後には、作動させる必要があります。B棟だけですから、二酸化炭素の除去の効果は大きいと思います」
「つまり、事故後三十時間で十二時間のバックアップ運転をして、更に三十時間耐える事ができるって寸法だな。合計七十二時間」
「いいえ、理想的には、事故後三十時間に四時間のバックアップ運転をし、二十時間後に四時間、更に二十時間後に四時間で、最後の二十時間を耐えれば、百二時間です。ただ、負傷者が、致死量ギリギリの二酸化炭素濃度に耐えられるかです」
 みんなの顔が曇った。
「酸素マスクが使えればなぁ」
 誰かが、ぼそっと言った。
 水素潜水では、水素濃度を爆発限界外に維持しなければならない。酸素マスクを使えば、その周辺だけ水素濃度が下がって爆発限界内に入ってしまう。こうなってしまうと、静電気などの小さな火種でも爆発してしまう。大爆発にはなり難いが、マスクを付けている人間は顔に火傷を負う事になるだろう。
「負傷者が耐えられそうな濃度で計算すると、二十五時間後に四時間、十五時間後に四時間、更に十五時間後に四時間と、最後の十五時間で、合計八十二時間です」
「三日間か。無理かもしれんな」
 鉄腕は、肯くしかなかった。既に十時間が経過しているので、残る時間は七十二時間しかない。負傷者を見捨ててギリギリまで引き伸ばしても、四日に満たない。アクアシティに係留されているクストーが回航されてくるまで、耐えられない可能性が高い。
「空気の問題は、これくらいにしよう。電力は私の担当だが、主電源については話す事は何もない。完全に破壊されていて、修理も考えられない。バックアップ電源は完全に無事だが、耐用時間が四十八時間しかないので、知っての通り、完全に電源を落としてある。今、使っているのは、治療機具の電源だけだ。電源の分配はこれから話合わなきゃならないが、今のペースなら三百時間以上耐えられる。電源が無くなる前に二酸化炭素濃度が致死量になってしまうから、耐用時間は気にすまい。さぁ、今度は水と食料だ」
 食品担当を担当するスポレットが答えた。
「食料は、言うまでもなく最も楽観できますが、電力を使えない場合、調理できませんから非常食を使う事になりますが、こちらは五十食ですから、四、五日でしょうか」
「負傷者は、非常食では無理なので、回復に合わせて調理したものを食べさせる必要があります。電力も必要です」
 唯一の医師、リーマンは、人命第一を強く訴えた。
「分かっている。電力の配分を考える時に相談しよう。で、水はどうだね」
 水と衛生管理も担当するリーマンが答えた。
「水は、全く問題ありません。タンクに損傷が無いので、三十日は耐えられます。もし、電力が使えるなら精製できるので、更に耐えられます。問題は、排泄物の処理です。タンク容量は通常で三日分しかないので、電力が使えない場合、溢れ出る事になります。衛生上も問題がありますが、臭気で健康、特に精神的に苛付く事にもなり兼ねません。二酸化炭素濃度が上がりますと、頭痛や吐き気等の症状も出ますので、相当に辛い状況になるでしょう」
 ここの空気は、海上から送られてくる事もあって清涼な雰囲気があり、閉鎖空間の息苦しさを和らげてくれる。それが、便所臭さの中で耐えるとなると、気が滅入った。換気装置が止まり、その傾向が現れ始めている。
「最後は、この基地が、今の状況でどの程度耐えられるかだが、構造の責任者であるリーダーが負傷しているので、全員で意見を出してもらいたい。まず、私からだが、A棟の漏水は一段落したから、ここに留まる限り心配は無いと思っている」
「そうですね。エア漏れもほぼ収まりましたし、緊急浮上しない限り大丈夫でしょう」
 オハラとオコーナーのスコットランド・コンビが楽観的な見方を示した。
「そうでしょうか」
 鉄腕は、思い余って切り出した。
「A棟は、現状維持ができるかもしれませんが、連絡トンネルは深刻です」
「おいおい、連絡トンネルは、運良く損傷を免れてただろう」
「いいえ、A棟との接合部で漏水が始まりました。事故直後は漏水はありませんでしたが、基礎部分が大きく変形しているので、そのストレスが接合部に掛かり続けているのです。その証拠に、A棟との間のハッチの閉まりが悪くなっています」
 暗闇を通して、仲間の顔を見た。外部からの情報の八十%を受け持つと言われる視覚を奪われ、他の感覚は極限まで研ぎ澄まされていた。音や空気の僅かな流れで、みんなの動きが感じ取れた。曇った表情さえ、見えるようだった。
「もし、連絡トンネルの亀裂が破断すると、A棟とのハッチにも問題があるので、大量のエアを失う事にもなり兼ねません。A棟を完全に閉鎖し、これ以上の損害を防ぐべきです」
「だが、A棟を完全に閉鎖すると、脱出ルートは緊急脱出球だけになるぞ」
 みんな、超一流のダイバーだ。ハッチから出られなくなる事を、極度に恐れる。鉄腕も、同じダイバーとして、その気持ちは分かった。
「おい、負傷者はどうするつもりだ。彼等にドライスーツを着せ、冷たい海に連れ出すのか。医者として言わせてもらう。ナンスは到底無理ですよ。彼も連れて帰るには、緊急脱出球か、本体の緊急浮上しか、方法は無い」
 語気の荒さから、リーマンが憮然としているのが、闇の中でも手に取るように分かった。
「ちょっと、話が逸れてしまってるぞ。今は、A棟の閉鎖を検討すべきだ。アムスの意見を取り入れ、無駄な消費も抑える意味でもA棟を閉鎖しよう。閉鎖したからと言って、直ぐに失われる訳ではない。どうしても必要となった時には、閉鎖を解けばいい」
 鉄腕も、妥協した。ただ、閉鎖を解いた際に何が起こるか、心配でもあった。
「さあ、今度こそ、最後の問題だ。いつまで待てば良いかだ」
 暗闇の中で、更にみんなの顔が曇った。
 オコーナーが、重苦しい沈黙を破った。
「事故で支援船ダーウィンもやられたのなら、もう一隻の支援船クストーしか、我々を救出できません。でも、クストーはアクアシティに係留されていて、直ぐに出港できるとは思えません。仮に出港できたとして、パナマ経由でここまで来るのに最短でも四日かかります」
「事故後、十時間経ったが、残り八十六時間は耐えるしかないのか」
「いいえ、出航準備するのに最短でも三日かかるでしょうから、百六十時間くらいは覚悟した方がいいですね」
 ぞっとした。
 空気は、九十二時間しかもたない。これは、負傷者を無視したぎりぎりの数値だ。非常食は、二日分が不足する。最悪、水中エレベータを使用するとなると、冷たい海に出るのだから、充分な食事を摂っていないと命取りにもなり兼ねない。現に、ここでの一日の必要摂取カロリーは、三千五百キロカロリーとなっている。非常食では、このカロリーは難しい。
「電力の配分を相当慎重に行わないと、到底生き残れそうにないな。電力の配分は、各自で二時間ほど考えてくれないか。取り敢えず、事故から百八十時間、今からだと百七十時間を生き延びるために、ぎりぎり節約した電力量をそれぞれの担当で検討してくれ。今ここで話し合っても、堂々巡りになるだろうからな。それから、ディックは負傷者の延命も、検討してくれ。二百時間は生きていられ方法だ」
 みんな、納得したらしく、暗闇の中、肯くのを感じた。
「それから、仮に緊急脱出球で脱出できるとして、いつ脱出すべきかも考えておこう」
 緊急脱出球は、浮上に三十分しか掛からない。海上での回収に手間取っても、二、三時間の内に船上減圧室に移れる。だから、内蔵のタンクでは、八時間分の酸素と二酸化炭素除去剤しか持っていない。
 逆に言えば、こちらが勝手に浮上しても、支援船が探してくれなければ、海上で窒息死をする事になる。
「上との連絡が取れない以上、脱出のタイミングも重要な要素だ」
 暗闇の中で、それぞれに頷いた。

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 シャングリラは、ほとんどの設備が、二重化、三重化されている。緊急脱出も、第一に水中エレベータ、第二に緊急脱出球、第三に基地本体の浮上と、三重の脱出方法が用意されていた。ところが、今回は、その総てが被害を受けた。
 鉄腕は、事故直後の海底基地に戻ってきた際に、外から惨状を知った。
 事故で切れたアンビリカルケーブルは、本来ならケーブルステーションの上に落ち、基地本体の上には落ちてこない設計になっていた。しかし、ケーブルステーションは、非常に強い力で引き摺られて基地本体に衝突していたので、当然のようにアンビリカルケーブルは、基地の上に落ちてきた。鉄腕のライトに照らし出されたそれは、大蛇が基地に巻き付き、ぎりぎりと締め上げているようにも見えた。
 緊急脱出の第一の方法、水中エレベータは、ダーウィンが大きな被害を受けて降ろせなくなっているらしく、未だに水中エレベータが下ろされた気配はない。水中エレベータは、その位置が分かるように、特定の音を出す。下ろされれば、必ず気が付く。その音を、誰も聞いていなかった。
 ケーブルステーションが引き摺られるほどの力だ。ダーウィンも、ただでは済む筈がない。水中エレベータが下ろせなくなっていても、不思議はない。
 第二の方法である緊急脱出球は、アンビリカルケーブルが絡まり、海底基地から切り離せない状況になっていた。これは、シャングリラに戻る時に確認しておいた事だ。まだ、脱出を試していないが、緊急脱出球はタンク容量が小さいので、この中に閉じ込められたら死期を縮めてしまう。確実に使える状況になるまで、使う訳にはいかない。
 第三の方法、本体の緊急浮上は、最も難しい状況にあった。
 まず、アンビリカルケーブルが圧し掛かっている事だ。シャングリラの余剰浮力は、それほど大きくない。アンビリカルケーブルを乗せたまま浮上する事は、到底できない相談だ。
 おまけに、落ちてきたアンビリカルケーブルが鞭のようにしなってシャングリラの外壁に叩き付けられたせいで、A棟側の溶接個所にひび割れを生じて漏水が始まっている。もし、このままシャングリラを浮上させると、現在は釣り合っている内外圧力差が内圧超過の状態になり、亀裂の場所から破裂する可能性が高い。
 残された方法は、現在は大西洋側に停泊している。もう一隻の支援船が回航されてきて水中エレベータを降ろしてくれるのを待つ事だけである。だが、パナマ運河を通過したとしても、ここに到着するのは早くても四日後になる。それも、出航準備ができていると仮定しての話だ。記憶違いでなければ、来春に別の場所で行われる水素潜水実験の準備中で、直ぐに出港できるかどうかは怪しいものだ。
 だからこそ、この基地の中で一日でも長く生き延び、救出される確率を高めなければならない。
 鉄腕は、作業艇ハッチ、潜水ハッチ、資材置き場、シャワー室、資料室、研究室と、A棟の各部屋を通り抜けた。
 資料室の漏水は、ほとんど止まりかけていた。
 壁面は、零度近い海水に冷やされて結露していた。だから、僅かな漏水は見抜く事が難しいが、他の部屋に漏水箇所は見当たらなかった。ただ、照明だけでなく暖房も止まり、息が白く凍る程、室温が下がっていた。
 A棟は、閉鎖するしかなさそうだ。
 研究室の脇の直径が五十センチしかないハッチを通り抜け、B棟へ繋がるトンネルに入った。
 トンネルの内径は、二メートル、長さは、四メートル。そのトンネルとA棟との接合部も、亀裂が入っているらしく、海水が滲んでいた。ケーブルステーションは、このトンネルの下側、A棟とB棟の基底部にぶつかっている。構造的には、最も厳しい状況に追い込まれている部分だ。今は、海水が滲んでいるだけだが、鉄腕は、A棟の亀裂より危険な気がした。
 A棟とのハッチを閉めた。厚さ五センチのハッチは、ハッチホールとの間で不気味な擦過音を響かせた。ハッチやハッチホールに傷がつけば、それが僅かな傷であっても、大きな水圧が掛かれば漏水を始めるかもしれない。
 一度、開けて傷が無い事を確認し、ハッチとハッチホールの接触面を奇麗に拭いた。そして、ゆっくりとハッチを閉めたが、また擦過音が聞こえてきた。ハッチホールが変形している事は疑う余地が無い。このまま閉めるしかなかった。
 鉄腕は、B棟とのハッチを通り抜けると、これもしっかりと閉めた。幸いな事に、こちらのハッチには被害が無いようだった。ハッチは、ハッチホールに吸い込まれるように納まった。
 B棟も、照明は落とされ暖房も止まっていた。吐いた息が白く煙り、ヘッドライトに照らされて目の前に浮かんだ。A棟でも聞こえていたモールスを打つ音が、B棟では耳に喧しかった。
 B棟は、生活臭が立ち込めている。厨房があり、トイレがあり、六人の男達の体臭が篭っていた。電源を守るために換気が止まっているので、悪臭と言ってもいいくらいに酷かったが、仲間が居る事を感じさせてくれる臭いが、鉄腕に安心感を与えてくれる。
 鉄腕は、奥に向かって歩き始めた。奥には、厨房、食堂兼会議室、各個人の居室と続いている。居室の二つには、二人の重傷者が寝ている。更に奥にある小さなホールの天井には、緊急脱出球に繋がるハッチがある。
 食堂兼会議室で、一人の男を鉄腕のライトが浮かび上がらせた。彼は、眩しいそうに目を細めた。
 鉄腕は、ライトを消した。途端に、男の顔が漆黒の闇に沈んだ。間も無く、外に出ていたダイバーも食堂に戻ってきた。

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