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 芙美子の代わりにインターフォンを取った宙美が、「家宅捜索?!」と聞き直しているのが聞こえた。
 動転した宙美が、芙美子に事情を説明している間、大地がインターフォンを取った。それを尻目に、隼人は、階段を駆け上がり、自室に飛び込んだ。
(家宅捜索の目的は、僕が持ってきたパソコンだ)
 隼人が地上から持ってきた品物は、手当たり次第、箱に詰めて持ち帰ってしまうだろう。それが、隼人の品か、父の品かは、持ち帰った後で分析する筈だ。彼等が、パソコンを見付けたら、喜んで持ち帰るだろう。
 隼人は、焦った。
 どこに隠せばいいのか、考えがまとまらなかった。
 警察は、隼人が荷物を二個も持ち込んだ事を押さえている筈だ。もちろん、パソコンを組み込んだアタッシュケースもだ。しかも、パソコンが入っている事も知っている。検疫官が見ているので、彼の記憶にも残っていただろう。パソコン本体を隠したら、益々疑われてしまう。
「よし!」
 隼人は、ドライバーを手に、パソコンを組み込んであるアタッシュケースと格闘を始めた。
 数分後、階段をドタドタと上がってくる足音が聞こえた。
「隼人君の部屋は、ここです」
 ドアの前で、大地が説明する声が聞こえた。ドアがノックされ、間髪を入れずに見覚えのある検事が、部屋に入ってきた。
「小惑星墜落事故の捜査で家宅捜索をします。征矢野勝史の私物を全て押収するので、隠さないようにしなさい」
「家宅捜索……ですか?」
「そうだ。君は、征矢野勝史の着替えと称して、荷物を二個も持ち込んでいるね。それを押収する」
「でも、父の分は、着替えだけですよ。それも、下着が主です」
「隠し立てすると、後で大変な事になるよ」
「ですが、本当に着替えだけなんです。父は、着替えを持ってこいとだけ、僕に言ったんですから」
 そう、あれが父の声を聞いた最後になったのだと思うと、死者を呼び捨てにする理不尽さに腹が立ってきた。
「君が、パソコンを持ち込んでいる事は、調べが付いているんだよ」
「パソコンは、僕のものです。父は、見た事も無い筈です」
「そんな言い訳が通用すると思うのかい。あの非常時に、パソコンを持ち出している異常さに、私が気が付かないと思っているのかね」
「僕が、小惑星の墜落を聞かされたのは、飛鳥に着いてからだし、周りの人も、似たようなものでしたよ。僕は、以前から申請していた飛鳥への見学が急に決まったくらいに考えて、家を出たんです。留守番ロボットには、三日間の留守番をセットしていたくらいですよ」
 ほぼ、事実だった。
「君のパソコンでも、征矢野勝史のパソコンでも構わない。君がここに持ち込んだ総てが、押収の対象だ」
 流石に、苛着いている様子が、隼人にも手に取るように分かった。
「そうだよ」
 検事の後ろから、小笠原警部も口を出した。穏やかで、慈悲に満ちた優しさで、隼人に視線を送っていた。
「素直に出した方がいいよ。家宅捜索令状には、君が持ち込んだ品総てが指定されているから、パソコンが君のものかどうかは関係無いんだよ。それに、あまり君が抵抗すると、公務執行妨害にもなり兼ねない。そうなると、私は君を逮捕しなければならなくなってしまう。そうならないように、協力してくれないか」
 隼人は、諦めた。
「分かりました。でも、これは僕の声紋でパスワードを掛けてあるから、今から、パスワードを解除します。それで、中を簡単に調査できるようになる筈です。でも、自作のパソコンだから、扱い難いと思います。もし、分からない事があったら、僕に伝えてください。説明をします。だから、壊さないでくださいよ。それから、父が触っていない事が分かったら、直ぐに返してください」
「いいだろう。約束しよう。いいですね、有馬検事」
 検事は、苦虫を噛み潰したような顔で、渋々肯いた。
 隼人は、パソコンを立ち上げ、音声入力でパスワードによるロックを解除した。
 運搬ロボットの多くが手ぶらで帰るほど、押収物の少ない呆気ない家宅捜索だった。有馬検事だけは、目的のパソコンが手に入った事で、渋い顔を続けながらも、どこか満足そうだった。
「隼人君……」
 大地が、不思議そうな顔をしていた。
「パソコンを隠しに二階に上がったと思ってたんだけど、違ったのかい?」
「え?」
「君が先に二階に上がっただろう。てっきり、パソコンを隠しに言ったんだと思ってたよ。だから、下で家宅捜索令状の内容を細かくチェックして、時間稼ぎをしてたんだけど」
 大地の推理力と咄嗟の対応には、驚くばかりだ。
「なぁんだ。そうだったのね。どうりで、大地君にしては珍しく、捜査令状の内容に拘っていたのね」
「まあね。でも、僕の推理が外れていたみたいだね」
 推理が外れたと大地が言ったが、宙美は尊敬の目で彼を見詰めていた。それが、寂しくも、悲しくもあった。だから、大地の推理が当たっていた事を隠したい心理が働いたが、事情があって大地には話すしかなかった。
「実はね、大地君の時間稼ぎは、凄く助かったんだよ。大地君の部屋に行ってもいいかな」
 隼人は、大地の了承も得ない内に、彼の自室に入り込んだ。そして、彼の通学鞄の中から、新書版程の大きさの黒い電子デバイスの箱を三個取り出した。
「それは?」
 流石の大地も、呆気に取られていた。
「記憶素子だよ。実質、これが本体みたいなものさ。本体には、OSが入った物が一つ残っているだけだよ。自作のパソコンだから、これを取り外した事には、気付かないと思うよ」
 記憶素子を取り外す事は、ただの思い付きだった。自作のパソコンだからこそ、手早くできたのだが、外した記憶素子の隠し場所には、少々往生した。
 もう一つ、メモリ構成の修正も必要だった。これをしなければ、OSが抜き取られた記憶素子の部分のエラーを検出してしまうし、ディレクトリ構成を見たら簡単に気付かれてしまう。これを修正するための時間を、結果的に大地が作り出してくれたのだ。
「呆れちゃうわ」
 宙美には、大地の時とは正反対の反応を示され、ショックを感じた。

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