- 2 -

「三人共、今朝は休みなのに、随分と早起きね」
 芙美子が、呆れ顔で三人の顔を順番に見ている。
「ちょっと、出掛けなきゃいけないんだ。仁科のおじさんと会うんだ」
 大地は、仁科と会う事を、できるだけ多くの人間に知らせておこうとしていた。食事の前にも、友人に電話し、急に仁科と会う事になったから、バスケットの試合には出れないと伝えた。金曜日にバスケットの試合をライバルチームに申し込んでいたから、おかしいなとは思っていたが、友人に印象付けるために、わざと嘘をついたようだ。
 だが、芙美子の表情が、険しくなった。
「大地君、まさか、仁科さんにお父さんの事で、迷惑を掛けるような事はしないでしょうね」
 さすがに、宙美の母、大地の叔母である。鋭い勘を働かせている。
 隼人は、ぎくっとなった。
「関係が無いと言ったら嘘になるけど、迷惑を掛けるわけでもないんだ。詳しくは、会った後で話すよ」
「何をお願いするつもりなの?」
 芙美子は、詰問した。
「何も頼まないつもりだよ。いや、話の内容によっては、一つだけ頼む事になるかもしれないけど、ただ、話を聞きたいだけなんだ」
「お父さんの事が心配なのは分かるけど、他の人に迷惑を掛けないようにしなさいよ」
 芙美子は、渋々ながら、会う事を認めた。
 食事が終わると、大地と宙美は出掛けた。
「あら、隼人君は、一緒に行かないの?」
「うん。僕は、まだ調べたい事があるから。おじさんの事を調べていたら、色々分かってきたんだ。大地君は、それを確認するために、仁科さんの所へ出掛けたんだけど、僕は、まだ調べる事が残ってるんだ」
「隼人君。一体、何を調べてるの?」
 隼人は、答えるべきか、逡巡した。
 その時、ちょうど電話が鳴った。宙美からだった。大地の電話は、開けておくつもりらしい。いざという時には、宙美の電話で連絡を取りつつ、大地の電話で通報するつもりらしい。
「じゃあ、このままにしてるよ」
 隼人は、そう言って、電話をしていないような素振りで、芙美子に対した。
「おばさん。知っていたら、教えてくれないかな」
「何を聞きたいの?」
「僕達が乗ってきたスペースプレーンなんだけど。あれは、どうして管制センターにあったの?」
 最初の質問は、確認済みの情報から始めた。
「あれは、宇宙移民事業団の主催で、鹿児島の中学生を、飛鳥やスペースコロニーに招待するために、準備していたんだと思うわ」
 ここまで調査が正しい事が、これで確認できた。同時に、なぜ捜査を始めた時に芙美子に聞かなかったのかと、後悔の気持ちが隼人の心の中に重く残った。
 気を取り直し、質問を続けた。
「じゃあ、招待していた中学生を乗せてあげれば良かったのに」
「それは、無理だったわ。私は、隼人君のお父様に頼まれて、職員の家族をスペースプレーンに誘導する係をしたの。だから、最終便になったんだけどね。
 時間が、足りなくて、できれば周辺の人達も乗せてあげたかったけど、あの辺りは過疎が進んでるでしょう。おまけに、お年寄りが多いでしょう。だから、集まってくるまで時間が掛かるのよ。隼人君のお父さんも、そんな事情を知った上で、事業団職員の家族に限定したのでしょう。それでも、職員は全員亡くなったし、事情を知った御老人の中には、若い人を優先するようにおっしゃられ、最後には私をスペースプレーンに乗せて下さった方もいたのよ。その方は地上に残り、代わりに私がここに来たの」
 芙美子は、その時の情景を思い出し、涙ぐんだ。
「中学生招待の主催者は、誰だったんですか?」
 芙美子は、隼人にちょっとだけ背を向け、見られないように涙を拭いた。
「管制センター長、つまり隼人君のお父様よ。でも、発案者は、今度の大統領選挙に立候補している勅使河原さんよ。勅使河原さんは、征矢野さんに進言して実現したのよ。ただね、自分で挨拶したいからって、日程は一方的に決めてしまったけどね」
 勅使河原の名前が、また出てきた。
 前回出てきたのは、大地の口からだった。
「勅使河原大善ですね。でも、その人は、お父さんに命令できるくらいの権限を持っているんですか?」
「そうよ。いわゆる族議員。宇宙移民事業団の長官だった人。宇宙移民事業団は、科学省の外郭団体だから、科学省のキャリア組が事務次官を務めてるんだけど、勅使河原さんは科学省から派遣されて五年前から三年間、事務次官を務めたのよ。だから、事業団には、強い影響力があるわ」
「飛鳥の許容人員がスペースプレーン二機分しかないのに、スペースプレーンが四機あったのは?」
「4班に分けて、行く予定だったの。最初の班が、八月十七日から十九日、次が二十日から二十二日、3班は入れ替わりで二十二日から二十四日、最後の班が、八月二十五日から二十七日の予定だったの。そこしか、勅使河原さんの予定が空いていなかったのよ。続けて行くものだから、スペースプレーンは四機用意したんだと思うわ」
 朧げだけど、事件の全体像が見えてきたような気がした。
 地上で挨拶するとしたら、十六日には地上に降りている必要がある。
「勅使河原さんは、こっちが本拠地ですよね。だったら、いつ、地上におりる予定になってたんですか?」
「そこまでは、分からないわ。でも、何かの打ち合わせで、地上に降りる予定があったんだと思うわ。その合間に、挨拶するつもりだったんじゃないかしら。でも、挨拶の場所は、地上とは限らないわよ。飛鳥でもできるから、地上に降りない予定だったのかも、知れないわね」
 挨拶の目的は、有権者へのアピールだから、子供しか来ない飛鳥で演説しても意味がない。子供達の父兄を集め、子供達の招待の目的を説く筈だ。
「隼人君?」
 宙美の声が、携帯電話のイヤープラグから聞こえてきた。

       < 次章へ >              < 目次へ >