伊牟ちゃんの筆箱

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  3

 翌日の午後、燃料の水素も酸素も満タンになった『うりゅう』は、大分港を出航した。
 村岡は、気になっていた。
 本当は、浦田が岸壁で簡単に挨拶するはずだったが、急遽、予定を変更して早朝の飛行機で省に戻っていった。その理由は、分かっていた。昨夕の記者会見を報告するためだ。できれば、彼より早く省に報告を上げておきたいところだが、そんな暇はない。
 浦田が居ないことで、出港のセレモニーはほぼ無くなり、粛々と出港の準備が進んだ。それは良いのだが、浦田が報告する内容が、正確には言いっぷりが気にかかっていた。
 村岡は、頭を振った。
 これから、潜水実験が始まるのだ。余分なことに気を取られていたら、事故に繋がりかねない。頭から、浦田の件を振り払った。

 潜水予定地点は、大分港を出て直ぐ、港の出入り口に近い所だ。
 瓜生島の推定位置は、大分港の出口の東側一帯と考えられている。ただ、瓜生島は、そこから西北西に向かって崩落したと考えられる。船の出入りや漁業権も考え、潜水地点は、大分港の北西二キロメートルに決まっていた。
 甲板上での最終確認を終え、ブリッジに戻った。ブリッジは球状で、しかも上下にしかハッチがない。ブリッジ下側のハッチは、『うりゅう』本体に接続されている。だから、ブリッジ上部のハッチまでよじ登らなければならない。
 ブリッジ側面のラダーを上り、上部のハッチを開いて、下半身をブリッジ内に押し込んだ。ハッチの直ぐ内側にある計器で現在位置を確認すると、特殊な雑巾でハッチの周囲を丹念に拭き取った。
 ここに、髪の毛一本でも残っていると、深刻な漏水に繋がる。繊維が残るのも好ましくない。だから、雑巾も繊維を使わない特殊なものを使う。
 周辺海域とハッチの確認後、村岡は外側ハッチを閉鎖した。ブリッジの床に足を下ろし、手を伸ばして内側ハッチの縁を同じように拭き取ると、内側ハッチを押し上げる。
 内径が僅か二メートル程の空間だが、意外に広く感じる。緊急時は、最大十名の乗組員がここに入り、海上への脱出を行う。広さを確保するため、計器も、補機類の操作も、二面ずつのタッチパネルとモニターで行う。ジョイスティックが二本あり、洋上航行中の操船は、これを使う。緊急脱出に必要な機器だけが、剥き身のバルブやスイッチとして、天井付近にまとめられている。
 そこに瓜生と二人で篭る。残る五人は、艇内の指揮所に詰めている。潜水に関わる操船は、ブリッジではなく指揮所で行う。村岡は、海上の安全確認のためだけにブリッジに残るだけだ。
 ただ、ここからの視界は、大きく制限を受ける。正面、左後方斜め上、右後方斜め上、後方斜め下の四箇所に、直径二十センチの小さな舷窓しかない。この四つの舷窓からの視界だけで、安全確認をしなければならない。
 瓜生が、正面の窓を担当し、残りが村岡の分担となる。
 うねりで、艇が揺れる。ローリングとピッチングが顕著で、素人なら船酔いするかもしれない。
「ギアダウン」
 本来の機能が海底居住基地である『うりゅう』は、着底用の脚(ギア)を持つ。ただ、航海中は、洋上であれ、海中であれ、大きな抵抗源になってしまうので、着底時以外は艇内に収納している。
「ギアダウン。オールグリーン」
 村岡に答えたのは、指揮所の浦橋だ。
「水密確認」
「全ハッチ閉鎖確認OK。洋上換気システム全閉鎖OK。オール・グリーン」
 これも、指揮所から届く。
「慣性航法装置チェック」
 洋上では、精度の高いGPSを使用するが、衛星からの電波が届かない潜航中は、慣性航法装置を使用する。
「誤差修正済み。慣性航法装置グリーン」
 GPSとの誤差は、自動補正するが、自動補正の状況を確認したのだ。
「ブロー。メインタンク、ベント開け。潜航!」
 メインタンクからの排気音が、ブリッジ内でも聞こえる。
「甲板、冠水」
 前後して、排気音が篭った音に変わった。
 村岡は、後方の窓から、甲板の冠水状況を確認した。うねりが出始めている別府湾の海水が、甲板だけでなく舷窓も洗い始めている。
 直ぐに、他の舷窓も水面下に没した。
「トリム確認」
「トリムバランスOK」
 瓜生が、深度を読み始めた。呼応するように、指揮所の魚塚が着底までの残り水深を読む。潜航震度が深くなるにつれ、艇の揺れは収まってきた。波長の二分の一の深さまで潜ると、海上の波の影響は受けなくなる。海上の波長は、二十メートルから三十メートル程度だった。もう少し潜れば、揺れも完全に無くなる筈だ。
 順調に潜航を続ける『うりゅう』の状況に、村岡は満足していた。
 十分余り後、『うりゅう』は、着底した。艇体は、少し傾いたが、ギアの長さの調整可能な範囲に収まっていた。
 浦橋がギアの長さを調整しているようだ。やや右前に傾いていたが、ディスプレイに表示されている水準器の値が水平に近付いていく。エアロック下のクリアランスも充分にある。
 一、二分で水平になった。
 着底作業も、これで一段落である。
 全員総出で水密確認を初めとする確認作業が待っている。夕食を挟んで深夜まで続くだろう。明日から加圧に入る。明後日からは、飽和潜水による十日間の水中調査だ。そして、二日かけて減圧し、今回のミッションのメイン部分が完了する。
「いよいよだ」
 村岡は、期待に胸が膨らむ思いだった。
 ただ、記者会見での出来事を、浦田が省にどう報告しているか、気掛かりではあった。

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  2

 『うりゅう』の大分港入港は、予定よりも七時間も遅れた。
 母港の横須賀を出て以来、接近中の台風の余波で、速力が落ちてしまった。
 公海に出ると同時に潜航し、海上の波浪の影響を受けにくい深度を維持していたが、豊後水道を北上するために四国沖で浮上した途端、速力が大幅に落ちてしまった。
 元々、『うりゅう』は、潜水調査基地としての機能が主で、単に自力で移動できる能力が追加されているだけだ。だから、水中、水上を問わず、大した速力は出ない。潮流が大きい場所では、潮の流れが変わるまで待たなければならない。
 足摺岬を回りこむ所で、風と波に押されて時間が掛かってしまった。そのために、豊後水道の途中で潮流が変わり、豊予海峡を抜けられなくなってしまった。当初は、ここを夜の内に抜け、未明には別府湾に到着する予定だった。大分港への入港は、セレモニーの準備ができた午前十時を目処にしていた。
 豊予海峡は、潮流が荒い所である。この海域で育った魚は、荒い潮に鍛えられて身がしまっている。有名な「関鯖」「関鯵」は、ここで取れる魚のことである。
 速力の無い『うりゅう』は、鯵や鯖のようにはここを抜けることができない。やむを得ず、宇和海で一夜を過ごすことになった。結局、大分港に着いたのは、夕方だった。
 村岡の父は、大分で育った。今も祖父が大分に健在で、何度も訪れた事がある。だが、海から大分を見るのは初めてである。高崎山が、印象的なシルエットを見せている。
 内海にある別府湾でも、台風の余波で時化始めていた。脱出用の水中エレベータも兼ねるブリッジは、狭い上に視界も悪い。狭さゆえに、操船関係の機器はほとんどがブリッジには無い。居住区内にある制御室で操船するのだが、水上航行では、監視が大切なので、スキッパーの村岡は、ここに陣取るのだ。
 村岡の指示に、浦橋がレスポンス良く操船し、『うりゅう』は予定の岸壁に停泊した。
 岸壁には大型のタンクローリーが何台も待機しており、横須賀からの回航で消耗した水素と酸素の充填作業開始を待ち構えている。今夜の作業は深夜にまで及びそうである。
 と言っても、充填作業の大部分は陸上要員が行うので、充填作業後の点検を別にすれば、乗組員は三人いれば何とかなる。村岡は、浦橋と魚塚、鮎田に『うりゅう』を預け、江坂、小和田、瓜生の三人を連れて上陸した。
 市内は、予想外の騒ぎとなっていた。上陸すると、市役所の迎えの車が待っていた。待っていたのは、車だけではなかった。マスコミが大挙して押し寄せていた。野次馬も集まって、警察官が交通整理まで始めていた。七時間も遅れたのに、この騒ぎである。
 フラッシュの中、二台に分乗して市の中心部にある市庁舎に向かったのだが、途中の街路には、所々に幟まで立っていた。
 大分市民は、瓜生島伝説には関心が強い。
 それは、父から聞かされていた。
 瓜生島伝説とは、現在の大分港付近に在ったとされる沈んだ島の伝説である。東洋のアトランティスとして、大分市民のロマンを掻き立ててきた。過去の調査でも、その存在を示唆する証拠も見つかっており、人々は実在したと信じている。
 『うりゅう』は、文部科学省の海底移動調査基地として建造された。その名前は、瓜生島伝説から戴いたものだ。だから、処女航海の目的地は、命名時から瓜生島の海底調査と決まっていた。
 「瓜生島」という名称が古文書に出てくるのは、一六九九年の「豊府聞書」と言われている。実は、瓜生島が沈んでから百年余りも後の時代である。しかし、瓜生島が存在しなかったわけではない。正しい名称は、「沖の浜」である。「沖の浜」には、フランシスコ・ザビエルも寄航しており、宣教師のルイス・フロイスも、九州にある海港が地震によって被害を受けた事を伝えている。
 「沖の浜」は、縄文の海進期に、大分川が運んできた土砂が堆積し、その後の海退期に海面に姿を現したとされている。このような成り立ちであるため、非常に軟弱だったと推定されている。
 一五九六年の閏七月十二日、マグニチュード七.〇の慶長大地震が発生する。
 この時、「沖の浜」は、全域で液状化現象を引き起こし、直後の津波と共に海底に没したと、考えられている。「沖の浜」の西側は、一気に別府湾に沈んだ。別府湾の最深部を、漁師達は「くぼおち」と呼んでいる。「沖の浜」は、この「くぼおち」に向かって地すべりを起こしたらしい。
 別府湾の地質は、複雑である。
 日本最大の断層である中央構造線は、諏訪湖から始まり、渥美半島から、紀伊半島、四国を縦断し、佐賀関で九州に上陸する。諏訪湖から東と、大分から西では、未だに正確な位置は確定されていないが、中央構造線の影響と思われる断層が、別府湾内には非常に多く見られる。
 このような地質なので、別府湾では、断層地震が起きやすい。
 こうした背景と、大分の県民性が、瓜生島伝説を育んできたのだろう。
 市庁舎内の駐車場で、車を降りた。
 赤絨毯こそ無かったが、まるでVIPのような扱いで、大会議室へと通された。
 先に聞かされた話では、記者会見の後で昼食会を行う予定だったが、到着が遅れたので、予定は記者会見だけとなり、会見終了後は簡単なパーティーを開くとの事だった。村岡は、パーティーの類は苦手であり、夕食時間も近いことから、パーティーには出席できないと、予め無線で告げてあった。
 役人が、素直に聞き入れたかどうかは怪しいが、記者会見だけは避けて通れないので、覚悟して会議室に入った。
 大会議室と書かれた会議室に入ると、ここも盛況というべきか、多くのマスコミ関係者が、村岡らを待っていた。
 村岡らが座るべきテーブルの前には、『うりゅう』のスケールモデルが置かれていた。ずんぐりとした外見が、見て取れる。このスケールモデルは、『うりゅう』の製造メーカがおまけで作ったものだが、四十四分の一とは思えないほど精巧にできていて、『うりゅう』が備える多彩な装備品も、精緻に再現されている。
 実は、横須賀を出港する際の記者会見でも、このスケールモデルが置かれていたので、村岡は、会見終了後にしげしげと見てきている。
 テーブルに着くと、会見席の端に座っている浦田が、苛々を隠しきれないでいた。
「いったい、どこで道草を食っていたのですか」
 棘のある言い方だった。
 浦田は、『うりゅう』プロジェクトの責任者だった。正確には、彼にはもう一人、上がいる。『うりゅう』は、単独航行が可能な性能を与えられているが、本来は、多機能支援船である『わだつみ』の支援を受けながら、海底での作業を行う。そのため、『わだつみ』の総括責任者が、『うりゅう』の責任者の上に立つ事になる。
 実は、『わだつみ』の総括責任者は、女性である。村岡は、その女性が苦手であり、嫌いでもあった。だからというわけでもないが、彼女と同じキャリア組の浦田も、村岡には嫌味な相手であり、できるだけ顔を合わせないように努力をしてきた。
 その例の一つとして、浦田が、『うりゅう』に乗り組んで大分までの回航を同行したいと申し出た時、村岡はありとあらゆる理由を並べて、断固として乗船を拒否した。
「私が同乗していたら、こんな遅れは出ませんでしたよ」
 どうやら、『うりゅう』に乗せなかった事を根に持っているようだ。彼を乗せると、指揮系統が乱れると考えた村岡は、敢然と拒否を続けたのだった。
 小型船舶の免許さえ持たないくせに、遅れを出させない技量があるようなことを言うのは腹立たしいが、相手にすると、達者な口先で言い包められそうなので、必殺技の完全無視を決めた。浦田も、村岡の態度を不愉快に思っているようだったが、多くのマスコミの前では慎むしかなかった。
 村岡達が席に着いたところで、記者会見が始まった。
 どういう訳か、市長も列席していて、彼の挨拶から始まった。
「皆様、本日はお集まり戴き、ありがとうございます。市長の首藤でございます」
 まるで、彼のために人が集まったような口ぶりである。このあたりは、政治家の口達者なのだろう。
「我が大分市は、風光明媚な地でございます。北に別府湾、南に霊山、東には九六位山、西には高崎山と、実に変化のある景観が広がっています。これらを生かした観光都市として、市の発展を支えております。
 また、古くは新産業都市、後には地方中核都市として、重厚長大産業だけでなく、シリコンアイランドとも言われるほど、半導体や知識集約型の産業も育ててまいりました」
 市長は、工業生産と観光産業の数値を並べて、如何に大分市が発展してきたかを、力強く演説した。しかし、彼が入れた力ほどは、誰も聴いていなかったと思う。
「このように、観光と工業だけでなく、我が大分市は、文化の面でも多くの歴史が語り継がれています。過去には、フランシスコ・ザビエルが、時の大名、大友宗麟に招かれて、大分の地を訪れております。そのフランシスコ・ザビエルが大分に最初に足跡を記した場所が、瓜生島でございます。
 瓜生島は、別府湾に浮かぶ島でしたが、慶長の大地震で海に沈んでしまいました。その様が、あまりにアトランティス大陸の伝説と類似しておりますため、東洋のアトランティスとして、今や、大分市民だけでなく、日本国民に知れ渡るまでになりました」
 やっと、本題に辿り着いたかといったところである。
「今回、最新鋭の潜水調査船が竣工するにあたり、文部科学省に要請し、その船の処女航海を瓜生島調査に当てて戴いた次第です。同時に、船の名前も『うりゅう』と名付けて頂きました。
 さて、皆様の前に並んでおられる四名の海の男達は、『うりゅう』の乗組員達です。お名前や担当部署は、文部科学省からいらしております浦田課長代理から、この後で説明があると思いますが、是非とも、今回の調査を成功させて頂き、我が大分市の文化と歴史を世界中に広めて頂きたいと思っている次第です」
 やっと、市長の挨拶が終わったと思ったら、彼はつかつかと歩み寄ると、村岡らに握手を求めてきた。彼に一番近い場所に居た浦田が手を伸ばすと、がっちり両手で握手したが、すぐに手を離し、隣の村岡に手を出した。
 村岡も、軽く握り返したが、今度は直ぐには手を離さなかった。それどころか、他の三人も呼び寄せ、手を取って村岡との握手の上に重ねていった。五人の手が重なり合ったところで、彼は満面に笑みを浮かべて、取材陣の方を見た。
 眩い光が、何度も明滅した。
 フラッシュが完全に収まるまで、彼は手を離そうとしなかった。
 村岡は、政治家のデモンストレーションに、最後まで付き合わされた。
 市長は、撮影の終了と共に、すっと消えた。幽霊の如き素早さだった。
「さて、今から『うりゅう』について簡単にお話させて頂いた上で、乗組員の紹介と質疑応答とさせて頂きます。
 申し遅れましたが、私は文部科学省の浦田でございます」
 浦田は、乗組員よりも先に、自分の名前を売り込んだ。
「御存知の通り、我が国は四方を海に囲まれております。海から食料を得、急峻な崖を避けて移動するためにも用い、まさに、我が国の文化は、海に育まれてきたと言っても過言ではありません。しかし、海は、時として我々に牙を剥き、多くの人命や財産を奪うこともありました。
 移動式潜水作業基地『うりゅう』は、こうした我が国の歴史の中で、水中の遺跡や沈船の調査、あるいは海底の様々な資源の開発を行うため、世界で始めて、移動能力を与えられた潜水作業基地として、竣工したのです。
 移動能力は、母港の横須賀港から大分港までの単独航海で、証明されました。潜水作業基地が、一切の支援を受けずに自力で千キロ以上も移動したのは、世界で始めての事なのです。
 『うりゅう』は、移動能力の他に、高い自立活動能力や、最新の燃料電池技術、分散型のコンピュータシステム、高度な自動化システム等、科学の粋を尽くした潜水作業基地なのです。
 これらの装置の機能は、『うりゅう』において性能評価が行われ、『うりゅう』以外の場所、特に一般家庭において応用される事が期待されています。ある意味、海底の未来住宅と言っても良いのではと、私は思っております。
 その『うりゅう』が、名前の由来ともなった瓜生島を、処女航海の中で調査させて頂ける事は、真に光栄であり、同時に御尽力下さった皆様に、この場を借りて感謝の気持ちを伝えたいと思います」
 言葉を切って、浦田は頭を下げた。
「少々、私の前振りが長くなってしまいましたが、『うりゅう』の乗組員を御紹介させて頂きます。まず、私の隣は、『うりゅう』の初代スキッパーの村岡です。続きまして、今回の学術研究員の江坂准教授です。そして、潜水リーダーの瓜生、最後がカメラマンの小和田です。彼ら以外に、『うりゅう』に保安要員として残っており、ここにはおりませんが、航海士の浦橋とエンジニアの魚塚、ダイバー鮎田の三名が、『うりゅう』に乗り組みます。
 『うりゅう』の装備については、スキッパーの村岡が説明します」
 村岡は、マイクを受け取った。
「村岡でございます。『うりゅう』乗組員を代表して、『うりゅう』の機能と装備等を説明させて頂きます。
 まず、潜水作業基地のメリットを御説明します。御存知の方も少なくないと思いますが、潜水作業は、減圧との戦いです。作業を行う深さや作業時間で、減圧時間はどんどん長くなります。しかも、一度浮上すると、次の潜水まで、充分な時間を空ける必要があります。つまり、潜水深度を増すに従って、減圧や待機の時間ばかりが長くなり、実質の作業時間がほとんど無い状態になってしまいます。
 これを改善する方法として、飽和潜水で連続作業を行う事が考えられます。つまり減圧しないのです。
 潜水夫は、常に水圧が掛かった状態で生活を行い、減圧は行いません。この場合、作業初日に加圧し、作業最終日に減圧するだけとなりますので、効率も良いし、減圧時の潜水病羅患のリスクも減らすことができます。
 飽和潜水作業を実現するためには、船上に加圧タンクを設け、水中エレベータで海底と加圧タンクを行き来する方法と、海底に加圧タンクと同じような潜水作業基地を設置し、そこで寝泊りする方法があります。前者は、海象の影響を受けやすい欠点があります。後者は、設置と撤去が面倒な欠点があります。
 両者の利点を生かし、同時に欠点をカバーする手段として、フランスのプレコンチナン計画の時代から提案されていた手法を、この『うりゅう』が初めて実現しました」
 村岡の本心は、『うりゅう』の基本計画を提案し、完成直前まで手塩にかけて事を自慢したかった。
 だが、それをしてしまうと、現時点の責任者の浦田の立場が無くなってしまうし、今後の『うりゅう』の運用に不透明な部分があるだけに、浦田を敵に回さない配慮が必要だった。
「先程、浦田からも説明がありましたように、『うりゅう』には最新の技術が適用されています。そういった技術を生かした装備を紹介したいと思います。
 なんと言っても、最初は、燃料電池でしょう。『うりゅう』成立の鍵は、燃料電池だったと言っても、過言ではなりません。燃料電池は、『うりゅう』の全電源を賄うだけでなく、廃熱は暖房に、生成物の水は飲料にと、余すところなく使っています。
 『うりゅう』が活動する海底は、海水温が低い場合が多いのです。『うりゅう』は、最新の断熱材を使用していますが、暖房は必須です。電源供給で捨てられる熱を暖房や給湯に使うため、燃料電池システムの総合の熱効率は八十%を超えます。これは、現時点では世界最高レベルの高効率なのです。高効率のお陰で、『うりゅう』は、二週間以上も何の支援もなく活動することができます。更に、燃料電池の燃料補給も、水中でも行える機能を備えています。
 この燃料電池からの電源で動作する主な装備品を、紹介します。
 『うりゅう』の主要装備は、AからGまでの頭文字で表されるA1からG1の七種の装備品があります。
 A1は、自律型ロボット潜水調査機です。指定海域の撮影や水質調査、簡単な資料採取を行います。B1は、ブリッジ兼用の緊急脱出用水中エレベータです。水上航行時は船橋ですが、潜水時には、船体からケーブルで海上まで浮上させることもできますし、本体から切り離して緊急浮上させることもできます。C1は、有線の作業ロボットです。A1とは異なり、ケーブルで『うりゅう』と繋がっているので、『うりゅう』のモニターを見ながら細かな作業をさせることができます。
 D1は、二人乗り潜水円盤です。構造が簡単で小型な潜水艇です。E1は、水中エレベータです。『うりゅう』を海上に置いた状態で、深海との行き来をする際に用います。F1は、作業機械の集合体です。G1は、GIMスーツです。『うりゅう』が潜れない深海でも、GIMスーツなら作業ができます。
 これらの装備の内、D1とG1は、常圧のままで作業を行う事ができます。A1とF1は、高度な自律機能を有し、プログラム次第では、有人に匹敵する作業を無人で行える能力を持っています」
 主役の座を奪われる危機感を盛ったらしく、浦田が割り込んできた。
「さて、長々と話して参りましたが、ここからは、質疑応答とさせて頂きます。どうぞ、どなたからでも御質問ください」
 村岡は、簡単な演説を考えてきていたが、浦田は、自分だけしゃべり、村岡には時間を割かなかった。質問の中で、用意してきた事を織り交ぜるしかなさそうだった。
 直ぐに、ほとんどの記者が手を上げた。浦田は、その中の一人を選んだ。
「大分中央新聞の佐々木です。首藤市長が話されたように、大分市民は、瓜生島の存在を疑う者はおりません。そこで、村岡さんと江坂さんにお伺いします。今回の瓜生島調査の目的と抱負をお聞かせください」
 まるで、台本のような質問だった。それに、いち早く反応したのは、江坂だった。
「僕は、今回の調査には、それほどの期待を持っていません。沖の浜の伝承は、過去の調査から見ても、確度の高い内容だと思います。しかし、四百年余り前の出来事ですので、考古学的な価値は、ほとんど無いと思います。もちろん、この地は、南蛮貿易で栄えていましたし、キリシタン大名を拝していたことでも知られています。それらを裏付ける意味の調査価値はあると思います。ただ、『うりゅう』の性能を考えると、あくまでも今後のための予行演習であり、実働時の問題点の叩き出しの意味が大きいと考えてください」
 大分市民の反感を買いそうな江坂の回答に、浦田は心穏やかではなさそうだった。しきりに、村岡を小突くのだった。
「私から、補足を兼ねてお答えします。『うりゅう』の性能は、ここまでの航海でも垣間見せてくれました。しかし、本来の用法では、定点においてダイバーが飽和潜水状態を継続して活動を行うための拠点となることにあります。瓜生島の調査では、深度が大きいために、過去の調査では手が付けられていなかった別府湾最深部を含む海底の調査を行います。当然、新しい発見があると思います。その意味では、今回の調査には大きな意義があると思います。
 ただ、江坂が申しましたように、『うりゅう』の性能は、遥かに高いところにあります。今回の調査を遥かに超える成果を上げていくことが求められており、我々も高い意欲を持って、それに望んでいこうと考えています。そのためには、瓜生島調査での経験が重要であると、私も江坂も、思っています」
 浦田は、満足したらしく、小突くのをやめた。
「タウン大分の田中です。瓜生さんにお伺いします。瓜生さんは、大分の御出身だそうで、船にも同じ名前が付いていますが、御感想をお聞かせください」
 瓜生は、いきなりの指名で驚いたらしく、太短い首を伸ばした。
 実は、村岡も焦っていた。彼を直接指名しての質問があるとは考えていなかった。口数が少なく、同時に口下手でもあった。だから、質問の大部分は、村岡と江坂でカバーするつもりだった。
 本人も、質問を受けるとは思っていなかったらしく、おどおどするだけで、なかなか声が出てこなかった。背丈こそ低いが、筋肉の鎧を着ているような身体つきは、九州男児を絵にしたようなものだが、今の彼は、助けを求めて村岡に視線を送ってきていた。
 村岡は、顎をしゃくって、自分で答えろと合図した。
「以前……じゃなくて子供の頃やから、瓜生島伝説を聞いた時、苗字と同じなんで他人事やない気がしてました。………苗字と同じ名前の船に乗って、瓜生島を調査できて、光栄というか、ああ……いい気分ちゅうか、そんな感じです。……あの、こんなんでいいでしょうか」
「はい、ありがとうございます」
 つかえながらも、無難に答えてくれたので、村岡はほっとした。ただ、スマートな回答を期待していたのか、浦田はため息をついた。
「豊後ラジオの坂下と言います。江坂さんと小和田さんに質問します。今回の調査では、色々な遺物が発見されると思いますが、その保存状態をどんな風に予想されているのでしょうか。また、カメラマンとして、どのように被写体を捉えようと、お考えでしょうか。私は、空気に触れていないので、保存状態は良いと思います。うまく撮影できるかどうかが、勝負ではないでしょうか」
 本当は、瓜生以上に、この男には喋らせたくなかった。それを見透かしたか、江坂が先に話し始めた。
「保存状態は、予想がつきません。素人の方は、空気に触れなければと思われるかもしれませんが、遺物の劣化の原因は、空気だけではありません。周囲の土砂のPHや有機物の影響、それに四十万都市の下水も関係あるでしょう。少々の劣化は、同時代の品が数多く残っているので、それほど問題にはならないでしょう。遺物の価値は、何があるかが大きいと思いますよ」
「あと、撮影技術を心配しているようだが、大当たりだよ。俺は、女の子を綺麗に撮るのは得意だが、四百年以上も前のガラクタとなると、ありのままに写すしかできそうもないな」
 地元民のロマンをガラクタ呼ばわりとは、流石に村岡も慌てた。
 小和田は、こうして敵を作っていくそうだ。
 カメラマンとしての腕も一流だ。戦場カメラマンも経験しているし、雪山登山も、スカイダイビングもやる。それ以上に、ダイバーとしての腕があり、ヘリウム潜水の経験も豊富だ。彼は、地球上のありとあらゆる種類の危険を経験している。
 だから、本来なら引く手数多の筈だが、性格や生活態度、言動、それに高額の報酬を要求するので、実力ほどの仕事は来ない。生きてきた日数分、敵を作ったと本人が言うくらいだから、世界中に敵がうようよ居るのだろう。
 『うりゅう』の乗組員の中で、唯一、村岡自身が口説き落として連れてきた人物だが、なぜ、小額の報酬にもかかわらず、村岡のもとに来たのか、よく分かっていない。
「次の質問をどうぞ」と、村岡が悪い余韻を断ち切った。
 数名が手を上げたので、その一人を指名した。
「中央TV福岡支局の江頭です。二点、お伺いします。一点目は、村岡さんは、元々は文部科学省のキャリア官僚だったそうですが、なぜ『うりゅう』のスキッパーになられたのでしょうか。二点目は、村岡さんが文部科学省におられた時に、『うりゅう』プロジェクトのリーダーとして、経済産業省にも掛け合って予算割合を調整したと伺っております。経済産業省にはどんなメリットがあるとみて、予算調達の調整をとったのでしょうか」
 村岡にとって、微妙な質問内容だ。村岡は、意識してにこやかな表情を作った。
「お答えします。一点目は簡単です。『うりゅう』に乗ってみたかったからです。あなたは、文部科学省の事務所の中で椅子に座るのと、『うりゅう』に乗るのと、どちらをやってみたいですか」
「まあ、『うりゅう』でしょうね」
「私もそうでした。二点目ですが、確かに私は経済産業省と交渉しました。それをまとめたのは、隣に居る浦田君です。その事は置いておくとして、『うりゅう』は、最新の技術をふんだんに取り入れています。
 最大で十人が、狭い船内で一ヶ月以上に渡って生きていかなければなりません。大深度の飽和潜水となると、減圧にかかる日数は、月まで行く時間よりも長くなります。ほんの数百メートルの距離でしかありませんが、数十万キロの距離に匹敵するのです。そんな苛酷な環境ですから、多角的に乗組員の負担を軽減するために、様々な装置が組み込まれています。これらの装置は、民生品への転用が容易ですので、経済産業省というより、国民への還元が見込めるのです。
 経産省も、そのあたりを理解してくれたようです」
 質問者だけでなく、多くの記者が頷いてくれた。
「二豊報道の山本です。村岡さんのお父様は、SF作家の村岡定道氏だそうですが、お父様は、今回の瓜生島調査をどのように話されていたのでしょうか」
 父の出身地ということもあるだろうが、売れない作家である父を知っているとは、驚きである。作家では食べていけず、定年まで勤めていた会社を辞めることもできなかったのだ。姉を知っているなら、分かるのだが……
「あまり話す機会が無かったのですが、私が『うりゅう』に乗ると知って、父は大喜びでした。もちろん、喜んだ理由は、私から小説のネタを仕入れられると考えたからです。今回の調査で、父に親孝行したいと思います」
 父の件が出たから、姉の件も質問されるのかと思ったが、次の質問は違っていた。ただ、姉の件よりも始末が悪かった。
「経済新聞社の越智です。村岡さんにお伺いします。『うりゅう』は、経済産業省からも予算が割かれています。先程来のお話ですと、『うりゅう』に使われている新規技術の間接的な還元しかないように取れますが、本当にそうなのでしょうか」
 村岡の退路を断つために、持って回った言い方を始めていた。好きなだけ話をさせたら、浦田がしゃしゃり出て、始末が悪くなる。村岡は、記者の言葉を切った。
「質問の意図が見えません。背景ではなく、質問内容を具体的に言ってください」
「では、単刀直入に申し上げます。『うりゅう』は、海中の遺跡の調査もさることながら、海底油田の調査や開発にも使用されると聞いていますが、いかがでしょうか」
「その件につきましては、私の……」
 身を乗り出すように、浦田が口を開いたが、素早く村岡が遮った。
「ちょっと待ちなさい。私を指名しての質問ですので、私が答えます」
 筋を通され、浦田は身を引いた。
「六年前、『うりゅう』プロジェクトを立ち上げた際、その最大の目的に、海底遺構の調査を掲げました。その理由は、現在の温暖化現象と関連があります」
 温暖化現象を口にしたところで、場内の雰囲気が変化した。
「温暖化に関係する問題は、環境問題を中心に、様々な問題があります。その中でも、最も象徴的な問題が、海面上昇でしょう。既に、世界中で海面上昇を思わせる現象の報告がなされています。ベネチアの街が大潮の度に冠水している事は、テレビでも繰り返し報道されています。人々は、広場に設けられた木道のようなところを歩き、海水を避けています。ツバルでは、二〇〇二年から海水の異常出水が発生していて、年々酷くなっている状況です。
 今後、百年間に、海面は一メートル程度、上昇すると考えられていますが、最大の二酸化炭素排出国であるアメリカと中国は、自国の目先の利益を優先し、排出量の制限をやろうとしていません。このような状況ですから、海面上昇は、避けがたい問題であり、予想以上に悪化する可能性もあるのです。
 ヨーロッパアルプスでは、氷河の後退が顕著になっていますし、北極海は、夏に氷が消滅する寸前になっています。南極でも、棚氷が次々と流れ出しており、危機的な状況といっても差し支えないでしょう。
 もし、南極大陸の氷が融けた場合、海水面が上がるだけでなく、津波が押し寄せる危険性もあるのです。南極大陸は、三千メートルにもなる氷の重みで、数百メートルも沈んでいます。氷が融けて、その重みから大陸が開放されれば、大陸自体が地震を伴って隆起してくる可能性もあるのです」
 リップサービスである。
 温暖化では、南極大陸の氷は、逆に増えると考えられている。南極大陸は、あまりの寒さで、空気中の水分はダイヤモンドダスト等で吐き出してしまっているので、地球上で最も乾燥している。ところが、温暖化すると、湿った空気が入りやすくなり、降雪量が増えることが考えられている。村岡自身は、この説を信じていなかったが、否定できるだけの証拠も持っていなかった。
 南極大陸の氷が解けないとなると、どうして海面が上昇するのか。要因の一つは、海水温上昇による海水自体の膨張である。
「現在、旧約聖書にあるノアの方舟伝説は、事実だったのではないかと考える学者が増えています。その舞台は、黒海です。黒海は、氷河期には干上がっていたと考えられています。しかし、氷河期の終焉と共に地中海の水位が上昇し、ボスポラス地峡を海水が越えるようになったのです。ボスポラス海峡ができて一年ほどで、黒海は今の水位まで上昇したのです。この大きな変化が、ノアの方舟伝説になったと考える学者が居ます。
 海底遺構を調査する目的は、単に先史時代の遺跡を発掘するという学術的な調査だけでなく、急激に上昇する海面に怯えながら、生き残りの道を模索していた古代人の様子を知る事にも繋がり、温暖化が進む現代において、多くの知識を与えてくれるでしょう。
 特に、二酸化炭素の二大排出国であるアメリカと中国の指導者には、このまま温暖化が進めば、最終的には自分自身の息の根を止めることになる事を知る切っ掛けにもなるでしょう。なぜなら、氷河期文明は、一つとして現代の文明に繋がっていないのです。メソポタミアも、エジプトも、氷河期文明との繋がりは見られません。海面上昇を生き延びた文明は、存在しないのです」
 村岡自身、興奮を感じていた。これこそ、彼が言いたかったことなのだ。
「私達が、海底遺構の調査を重要視するのは、お話したような目的があるからなのです。もちろん、『うりゅう』の潜在能力は、計り知れません。海底油田の開発に用いれば、大いに貢献できるでしょう。しかし、海上からの掘削技術が確立している海底油田開発で『うりゅう』を用いるのと、『うりゅう』でなければ難しい海底遺構の調査に『うりゅう』を用いるのと、どちらがより効果的な使用方法か、皆さんにはお分かりになるでしょう」
 越智は、憮然とした表情で座った。
 隣を見ると、浦田が顔を真っ赤に染め、村岡を睨んでいた。
「次の質問をどうぞ」
 村岡の演説の後だけに、記者達も質問しにくそうだったが、一人が手を上げた。
「毎朝新聞の佐伯です。江坂さんにお伺いします。瓜生島以降の調査は、どこが予定されていますか。また、どのような場所の調査が有効でしょうか」
「その件につきましても、私がお答えします」
「待ちなさい。江坂君への質問です。横槍を入れるのは、ルール違反ですよ」
 浦田が、先程の村岡の回答に修正を入れたがっている事は分かっていた。ここで、修正されては、村岡の演説も無駄になってしまう。「ルール違反」だと、強い態度に出たのは、この場を村岡が仕切る事を、浦田にも、記者達にも、明確にしておくためだった。
「計画があるのは、沖永良部島の海底神殿と言われている場所です。ここは、海上にある間に作られたグスク様の建造物が、地殻変動によって海底に没したと考えられていて、氷河期文明とは異なるようです。しかし、水深が深いために未調査の部分があり、ここの調査を行う事で、今後の調査計画の立案に役に立ちと考えられます。
 これ以降は、個人的な希望となってしまいますが、台湾東岸や、スンダランド、イス文明、黒海等が候補になるでしょう。台湾東岸は、調査範囲が狭く、『うりゅう』の貢献度は大きくならないでしょうが、それ以外の海域は、調査範囲が非常に広く、『うりゅう』無しでは考えられません。調査は、困難を極めるでしょうが、その価値は非常に高く、是が非でも、調査を成功させたいと考えています」
「すみません。スンダランドとか、イスとか言われましても、場所も、特徴も、分かりません。説明をお願いします」
 村岡は、江坂に簡単に答えるように合図を送った。
「どこも、決定的な証拠が見つかっていないので、場所だけの説明とします。まず、スンダランドは、スンダ海に在ったとされる文明です。イス文明は、北海の辺りにあったとされる遺跡です。どちらも、氷河期には海面に出ていたと考えられ、特に、イス文明は、ドーバー海峡付近を流れていたと考えられるヨーロッパ川と呼ばれる大河の周辺に、大きな文明が存在したと思われます。フランスの首都パリの名は、イスに負けないとの意味もあるそうです」
 江坂が回答している間が、村岡にとって最も落ち着いていられる。二人の目的意識は、ほとんど一致している。その対極にいるのが、浦田だ。だが、回答内容が推測できる分、小和田や瓜生より組みしやすいのかもしれない。
「ちょっと訂正がありますので、御紹介します」
 浦田が立ち上がった。
「今後の『うりゅう』の予定ですが、瓜生島調査の後、一度、横須賀に戻して艇体の検査を行った後、尖閣諸島での資源調査が組まれています。ここで、支援船の『わだつみ』との連携も確認することになっています」
 村岡は、驚いた。そんな話は聞いていなかった。浦田を見ると、してやったりとばかりに、胸を張っている。
「待てよ! おい、コラ! 俺様の契約はどうなってるんだ。一年契約だ。海底遺構の撮影ができるから契約したし、契約書にも調査対象箇所が明記されてるんだぞ。契約違反だ!」
 椅子を飛ばして、小和田が立ち上がった。村岡も立ち上がり、小和田を背中で制しながら、浦田からマイクを奪い取った。浦田も抵抗したが、体格差が大きく、村岡の右手一本で払い除けられた。
「みなさん、御静粛に。簡単に説明します」
 村岡が「説明」と言ったので、騒然となりかけた記者会場も、落ち着きを取り戻した。
「文科省と小和田との契約では、今後一年間に、瓜生島調査と沖永良部島海底遺構を行うことが、明記されています。また、一年間に行われる全ての学術調査に随行することも、書かれています。ただし、二つの学術調査は、一年以内に行われれば、契約違反にはなりません。ただ、『うりゅう』の運用には危険が付きまとうため、艇体の検査と整備には、十分な時間を割く必要があります。そのため、どんなに多くても年に三回のミッションとなります。従って、資源調査が計画あったとしても、この一回のみとなるでしょう。
 文科省でも、それを把握した上での日程変更だと思います。この辺りは、後程、浦田から説明があるはずです。
 また、文科省所属の船ですから、文科省としての運用、すなわち学術調査の優先度や目的があるはずです。私が在籍していた時とは、日程が変わっているので、この辺りの内容も、浦田に聞いてもらうしかありません。もちろん、最初から他の省庁の要望が、文科省や大学等の学術調査より優先度が高く設定されることはないと思います。
 色々と申し上げましたが、我々は明日からの調査に備えなければなりませんので、これにて失礼させていただきます」
 江坂は、空気を読んで、先頭に立って会場を出て行った。
 瓜生は、小和田の左腕を脇に抱え込んだ。瓜生は怪力の持ち主である。片腕を取られただけで、小和田の動きは封じられた。村岡もそれに習い、小和田の右腕を抱え込んだ。興奮して浦田に罵声を浴びせ続ける小和田を、二人で抱えあげるように浦田の後ろをすり抜けた。
 記者達から、質問が飛び交ったが、全て笑顔で受け流しながら、騒然となった会場を後にした。

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  1

 ウィングで受ける風は心地良い。
 双眼鏡を手にしているが、ウィングに出る口実のために持っているようなものだ。彼にとってのこの場所は、一人になれる艦長室よりも居心地が良い。
 「数日後には台風が接近する可能性がある」と気象庁から予報が出ている事が信じられないくらい、日本海は穏やかだった。陸は、夏休み最初の週末で、猫も杓子も行楽地へと押し寄せているはずだが、日本海は細波しかなかった。遠くに鳥山が立ち、それを目指して漁船が集まりつつあるのが唯一の賑わいと言えた。
 その漁船群とも十分な距離があり、かつ右舷後方に遠ざかりつつある。それ以外に船影は無く、気分の良い航海だ。だからこそ、乗組員の緊張感が緩まないようにしなければならない。
 もう一度、双眼鏡で周辺を確認する。
 左舷十時の方向から前方へ、更に右舷へと、ゆっくりと双眼鏡を向けていく。右舷二時の方向まで見渡し、双眼鏡を下ろした。
 やはり何も無い。
 水兵の肩をポンと叩き、艦橋に入った。双眼鏡をキャプテンシートの横に固定すると、そこには座らず、階下のCICに下りていった。
 彼が指揮するイージス護衛艦は、十二ノットで舞鶴港に向けて航海を続けた。
 艦橋の左右のウィングにそれぞれ一人の水兵の姿が見えるだけで、二百名を超える自衛官が乗り組んでいるとは思えない。のんびりとしているように見えても、イージス艦の中は、戦時体制と言ってもよかった。
 平時の第三配備から一段上がった第二配備に切り替わっていたのだ。通常の三交代勤務と違い、二交代制となっているせいで艦内はごった返している。
 海上自衛隊の護衛艦もイージス艦への転換が進んできたが、この『さかなみ』は最新鋭である。舞鶴に配備されたのは、今年の初めである。
 『さかなみ』は、建造計画が決まった時点から舞鶴への配備が決定していた。その最大の理由が、単独の弾道ミサイル迎撃能力である。
 これまでのミサイル迎撃システムは、イージス艦の高度なデータリンク能力を生かし、早い段階での迎撃を可能にした。だが、現実には、迎撃ミサイルの性能にも、レーダー追跡と軌道計算能力にも、問題があった。そのどちらもアメリカ側で開発しており、日本は共同開発と言いつつ、システムの中身を見る事はおろか、口出しさえもできなかった。
 これに業を煮やした防衛庁と国内メーカーは、独自の迎撃システムの開発に着手した。ただ、アメリカの手前、大げさな開発はできず、表向きは、対艦ミサイルの迎撃システムという事になっていた。システムの骨子は、遠距離発射の対艦ミサイルを発射時点の軌道から接近経路を予測し、艦の遥か手前で迎撃ミサイルを用いて迎撃する事を目的としていた。
 長距離の対艦ミサイルは、航空機から発射された直後に海面付近までダイブして、艦載レーダーの探知から逃れる。その後、発射時に航空機から得た情報で敵艦の位置を予測し、高速で接近する。敵艦に接近すると、少し上昇して搭載のレーダーで敵艦を索敵する。上昇する事で敵艦のレーダーに見つかってしまうが、充分に接近しているので、迎撃は間に合わない。最後には敵艦の喫水線付近に突っ込んでいく。
 現在では、超水平線レーダーが開発されたが、艦船は発見できても、小さなミサイルは、長波長のレーダー波から漏れてしまい、発見が難しい。だから、長距離の対艦ミサイルは、今でも効率的な対艦攻撃手段なのである。
 防衛庁が開発を進めてきた迎撃システムは、敵の航空機が対艦ミサイルを発射した直後に、迎撃ミサイルを発射する。このミサイルは、自らのレーダーで敵ミサイルを索敵し、その情報をイージス艦に送る。イージス艦では、このミサイルが送ってくる情報を基に、時には複数の標的を追尾し、同時にミサイルを誘導する。ミサイルは、標的を指示されると、高空からほぼ垂直に降下して敵の別のミサイルをピンポイントで撃墜する。
 この技術は、高速で移動するミサイルに直交する軌道から攻撃をするため、精度の高い軌道予測が必要になる。この技術は、弾道ミサイルの迎撃技術にも転用できる。
 防衛庁は、国内メーカー数社と共同開発を行った。索敵能力が高く、かつ高速で迎撃コースを指示する能力を持つレーダーシステム。高い姿勢制御能力と、高度なレーダーホーミング能力を持つミサイル。両者を結ぶ高速で耐ジャミング能力に優れたデータリンク装置。
 最終的には、政情不安が続く朝鮮半島を鑑み、ミサイルの迎撃可能高度を大幅に増大させる事で、第二の弾道ミサイル迎撃システムとしての開発を急いだのである。
 表向きには、対艦ミサイル迎撃システムだが、実際にはほぼ全ての種類のミサイルの迎撃能力を備えていた。
 しかし、同時期に、K国はICBMをロフテッド軌道で打ち上げる実験を始めた。このため、誘導システムを流用し、ロケットモータを大幅に強化してロフテッド軌道に対応できるミサイルシステムを追加開発した。
 ロケットモータが大型化したため、従来のイージス艦に搭載する事は難しく、イージス艦自体も再設計されることになった。『さかなみ』は、このシステムを初めて装備した護衛艦になった。
 艦橋以上の緊張感が支配するCIC室(戦闘指揮所)は、艦橋の斜め下、艦長室の真下にあった。レーダー監視、攻撃管制、防空指揮所等が同室にまとめられ、ソナー室と通信室が隣接していた。ただ、機器の保護と、戦闘時の損傷を防ぐために、窓は全く無く、分厚い防弾壁に囲まれていた。
「どこかの国が、本艦の性能をチェックするために、何か軍事行動を起こさないといいのだが・・・」
 艦長が、ぼそっと防空司令官に漏らした。
 司令室にいた他の兵達に聞かれないように、防空司令官を引き寄せて小さな声でささやいた。司令官も、頭を寄せてきた。
「F35がスクランブル配備になった時も、ロシアも中国も意図的な領空侵犯をやりましたね」
「そうなんだよ。空自からの報告だと、電子警戒機が少し離れた場所に滞空し、後続の編隊が領空を掠めて飛んだらしい。当然、スクランブルが掛かって、F35が全力で現地に向かう事になるから、およその性能が見えてくるのさ」
 副官は、眉間に皺を寄せた。
「そうすると、本艦にもちょっかいを出してくる可能性がありますな。そのための第二配備ですか?」
 艦長は、小さく頷いた。
「問題は、対艦ミサイルの迎撃性能を見ようとするのか、弾道ミサイルの迎撃性能を見ようとするのか」
 渋面を崩さず、副官の顔を見た。
「対艦ミサイルだと見せてやらないでもないが、弾道ミサイルとなると・・・」
「でも、我々が迎撃体制に入るような餌をまかないと」
「違うな。我々が手を出すまで、やる事を段々えげつなくしてくるさ。迎撃せざるを得ない状況を探ってくるさ」
「そうでしょうか。私が、あちらさんの立場なら、いきなり危機的状況を演出して、こちらの指揮命令系統がどの程度機能するかを見ますがね」
「おいおい、そんな事は冗談でもやめてほしいな。特に、ミサイル迎撃は政治家が絡んでしまうから、実際にあった場合には、責任問題とも絡んで対応は不可能だろうな」
「つまり、艦長が乗艦している間には、そんな事は起こってほしくないと」
「当然だね。もちろん、国民のためには、私が乗艦していない時でも決して起きてほしくは無いがね」
「同感です」
 CIC室を副官に任せ、艦長は艦橋に上った。
 『さかなみ』は、十二ノットで日本海中央部から母港の舞鶴港を目指して航海を続けていた。辺りは、夕闇に包まれようとしていた。遠く、西の空の雲の切れ間には夕焼けが残っていたが、雲の流れは速く、台風の接近を予感させた。梅雨明けが遅れているせいか、『さかなみ』の周囲は雲が厚かった。
 台風は、小笠原諸島の西方海上で迷走していて、梅雨前線を刺激して各地で局地的な雷雨が伝えられていた。幸い、『さかなみ』までは距離があるので、風と波は影響を受けていなかった。作戦司令室で見たレーダーには漁船のエコーが数多く映っていたが、まだ漁には支障が無いのだろう。
「私は、艦長室に戻る。舞鶴湾に近付いたら、呼びに来てくれ」
 副官に言い残すと、右舷側のすぐ後ろにある艦長室に戻った。
 艦長は、艦長室で唯一の小窓を覗いた。
 夕闇の中で、漁船は集魚灯を煌々と照らしていた。
「あれでは底にいても目が眩みそうだ」
 窓を離れ、帽子をフックに掛けた。デスクにつくと、航海日誌を取り出した。幸いなことに、今日も何も書くことがなさそうだ。
 そう思った時に、インターフォンが鳴り始めた。
 CIC室からだった。
「どうした?」
 ロシアあたりの国籍不明機だろうと、高をくくっていた。ところが・・・
「弾道ミサイルを補足しました」
「弾道ミサイル? 何だ、それ?」
 予想もしない内容に、面食らっていた。
「だから、弾道ミサイルです!」
 防空訓練の話は聞いていない。
 これは実戦か?
 一気に緊張が高まった。
「発射地点は特定できてるのか?」
「K国の東海岸です」
「ロケットじゃないのか?」
「事前通告はありません。方向も東ではなく、南東を向いています」
 通常のロケットは、地球の自転を利用するために、自転方向である東に向かって打ち上げられる。軍事衛星や測地衛星は、極軌道と呼ばれる南北方向に打ち上げる場合もある。しかし、ロケットを南東方向に打ち上げることは無い。
 艦長は、ミサイルだと確信した。
「すぐに行く。着弾予想地点と時刻を割り出せ。迎撃プログラムをスタートする。プログラム通りに行動するんだ。大丈夫だ。訓練の通りにやればいい」
 インターフォンを切り替え、艦橋を呼び出して停船を命じた。
 掛けたばかりの帽子を再び手に取ると、艦長室から駆け出した。
 つい先程まで居た時とは、CIC室の雰囲気はまるで変わっていた。
「着弾予想地点はまだですが、進路は東京の上を通過します。それも、ど真ん中です」
「ミサイルの準備は?」
「三発が準備できています。いつでもOKです」
「防衛省とは連絡はついているのか?」
「回線は繋がっていますが、応答はありません」
 緊急対処要綱では、首相の承認を得られない場合に、防衛大臣の判断が許されている。ただ、最終判断は、現場の指揮官、つまり艦長に委ねられる。
 仮に、ミサイルだとしても、東京を通過するだけのミサイルであってほしい。通過するだけなら、房総沖に落ちるミサイルなら、迎撃をしなくてもすむ。
 でも、目標が本土となれば、大臣の命令が無くとも迎撃を命じなければならなくなる。迎撃に成功しようが、失敗しようが、艦を降りることになるかもしれない。そんな事態には遭遇したくない。
 マイクを取るなり、「全艦放送に切り替えろ」と命じた。隣に居た水兵が、切り替え操作を行った。それを目で確認し、艦長は話し始めた。
「艦長の久我山である。これより弾道ミサイルの迎撃体制に入る。これは訓練ではない。繰り返す。これより弾道ミサイルの迎撃態勢に入る。これは訓練ではない。諸君らの実力を見せてほしい。以上」
 マイクを置くと同時に、「第一配備に切り替えろ」と命じた。
「今、着弾予想地点が分かりました。東京です。北緯三十五度四十分、東経百三十九度四十分を中心にして、北西から南東へ長い楕円の長径が百キロメートル、短径が二十キロメートルの範囲内に着弾します。予想時刻は、今から八分です」
 艦長の淡い期待は、打ち砕かれた。本土に着弾する。弾頭が付いていなくても、死傷者が出ることは必至だ。
「中心はどこだ?」
「杉並付近ですが、標的が東京の都心であることは、疑う余地がありません」
「私見は慎め!」
「アイ・サー・・・」
 だが、彼の緊張と危機感は分かった。七十五年ぶりに東京が空襲を受けようとしているのだ。黙ってはいられなかったのだろう。ミサイルの着弾予想範囲には、皇居も霞ヶ関も新宿も渋谷も入っているのだから。
「迎撃に残されている時間は?」
「一分十八秒、十六、十五」
 何とかして、大臣の命令が欲しかった。
「大臣とは、連絡はつかないのか?」
「まだです」
 K国軍に試されているような気がした。それならば……
「迎撃を行う。警報を鳴らせ。甲板とウィングの兵に艦内への退避命令を出せ。艦橋にミサイル発射時の防護装備をさせろ」
 けたたましいサイレンが艦内に鳴り響いた。
 艦橋も、ミサイル発射時の音と光に対応すべく、バイザー付きのヘルメットを大慌てで取り出していることだろう。
「迎撃可能時間が、一分を切りました」
「連絡はまだか?」
「まだです!」
 オカのエライサン達は、現場を知らない。
 迎撃の命令は、勇気がいる。自分の進退を賭けて判断することになる。己の保身と野心だけで行動を決める政治家達が、この重大な決断を行うことの危うさは、どう表現すれば良いのだろう。
 K国が、弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の開発に成功したとの話は聞いていない。
 しかし、これが核弾頭を装備していたら、たった一発で政府の指揮命令系統を粉砕し、その後の戦闘は、相手の計画通りに進行することになるだろう。相手が本気なら、この数分で勝負が決まるのだ。保身も野心も関係なく、物事は進む事だってあるのだ。それも、国民を犠牲にしつつ。
 なんだか、無性に腹が立ってきた。
 単独で決断するしかない。自分は、何のために自衛隊に入隊したのか。今こそ、思い出すべき時だ。
「直ちに第一弾を発射しろ」
「データリンク切り離し。発射します」
 ドンと衝撃を感じ、CIC室にまで、ロケットモータの爆音が響いてきた。
「残り何秒だ?」
「四十五秒を切りました」
「第一弾の三十秒遅れで、第二弾を発射しろ」
「第三弾は?」
「残り時間が無い。迎撃コースに乗せられない。この二発のどちらかが命中することを信じよう」
 二発目のミサイルが発射されたのが、軽いショックと爆音で分かった。
 過去の迎撃実験では、1回だけ発射し、成功している。
 今回は、ロフッテッド軌道ではないので、従来のSM3システムでも対応できる。SM3の命中精度は八割程度だから、二弾でも九十六パーセントの確率で撃墜できる。残る四パーセントが気になるが、もう打つ手がない。
「第一弾の命中予想時間まで、一分を切りました。第二弾は一分九秒」
 第二段は、発射が遅い分だけ、より接近した位置で命中する。ほとんど真上だ。だから、発射間隔より命中予想時間は差が少ない。万が一、弾道ミサイルが核弾頭だったなら、二発目では打ち落としたくない。ミサイルの破片は、日本の沿岸に落ちてくるだろう。核ミサイルだったなら、その中には、核物質も含まれることになる。
「第一弾の命中まで十秒、八、七、六、五・・・」
 命中しようが、すまいが、これから忙しくなる。
 久我山は覚悟を決めた。

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別府湾で潜水調査中の移動式潜水基地『うりゅう』に政府の極秘命令が下る。
命令遂行中に『うりゅう』が海底で見つけたものとは・・・
同じ頃、浅村は氷床コアの最下層であるものを発見した。
新木も、地の底で不思議なものを捉えていた。
      
海の底、氷の底、地の底が繋がり、沈んだ過去が暴かれる時、未来が溺れ始める。


 沈んだ過去 溺れる未来  1
 沈んだ過去 溺れる未来  2
 沈んだ過去 溺れる未来  3
 沈んだ過去 溺れる未来  4
 沈んだ過去 溺れる未来  5
 沈んだ過去 溺れる未来  6
 沈んだ過去 溺れる未来  7
 沈んだ過去 溺れる未来  8
 沈んだ過去 溺れる未来  9
 沈んだ過去 溺れる未来 10
 沈んだ過去 溺れる未来 11
 沈んだ過去 溺れる未来 12
 沈んだ過去 溺れる未来 13
 沈んだ過去 溺れる未来 14
 沈んだ過去 溺れる未来 15
 沈んだ過去 溺れる未来 16
 沈んだ過去 溺れる未来 17
 沈んだ過去 溺れる未来 18
 沈んだ過去 溺れる未来 19
 沈んだ過去 溺れる未来 20


 索引


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